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完全に見えない、けど見える

十数年前にベルリンを訪れた私は、友人に「unsichtbar」ウン・ジヒト・バーに連れて行ってもらった。ドイツ語の「un – sicht – bar」「not – see – bar」は、見えないレストラン。真っ暗。完全に遮光されている。人間の五感のうち視覚からの情報が8割程度を占めていると言われていて、音や聴覚を専門としていた私にとってunsichtbarは未知なる世界で、とてもワクワクした。以前日本で常設されていた有名な暗闇を体験する取り組み「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」なども当時はそんなに有名ではなかったと思う。

レストランの中は、目を開けても本当に何も見えないから、ウェイターの肩を掴み電車ごっこのように歩いて席まで案内してもらう。目が慣れれば少しくらいは見えるんでしょ?と思っていた私が甘かった。ドリンクに炭酸水を頼んだことを強く後悔した、運ばれてきたのは氷の入ったグラスと炭酸水のボトル。見えないのにどうやって注ぐの?どうしたら適量まで注げるの????(グラスに指を突っ込んで注ぎました…)非日常、異次元の感覚に思わず笑ってしまう。完全に見えない世界では、全盲のウェイターの方がずっとずっと上手に歩けた。

どんな人でも、環境が合えば上手に働くことができる。

私はこの数年間、株式会社なまえめがねのアドバイザー的な立場にいます。そこでずっと考えていることは「どうしたら女性が幸せに生きられる社会を作れるのか」。私は幸せになることはとっても簡単だと言い続けています。それは「幸せだと思うこと」、たったそれだけ。他人から与えてもらうばかりの幸福は、そう長く続きません。誰かのために何かできること、社会の一員として必要とされること。受け取るばかりではなく、自分から動き、誰かのために社会のために居られることが非常に重要です。

葛西スペースのために受講した食品衛生責任者養成講習会では、WHO憲章による「健康」の定義が紹介されました。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)

健康というと体や心のことばかり考えてしまいがちですが、社会に居場所があることは、とても大切なのです。

葛西スペースをプレオープンして半年が経ちました。ここで1年前に書いた企画、コンセプトを載せます。

居場所をつくる
社会における役割を感じ、孤独をへらす場所へ。
誰だって褒められたいし、認められたい。
誰もが輝ける、訳じゃなくて良い、人それぞれでいい、
すべての人は素晴らしい。
素晴らしいがつながれば、もっともっと素晴らしくなる。

写真の左側に見えるのは、葛西スペースでやりたい事リスト。これは私がやってみたいことであり、私なりに社会を考察して、みんなを幸せにしてくれるだろうと思った企画です。沢山のことを実現するためには、たくさんの人の協力も必要で、葛西スペースを通りかかった方々が「ここでこんな事をしてみたい!」と、能動的に考え、日常をワクワクさせるような仕組みを作っています。

何年も前から温めているリストの中には「認知症カフェ」がありました。「注文をまちがえる料理店」のことを知り、やってみたいなと思いながら、料理店は大変そうだから… と怖じけずいて「カフェ」としていたような記憶があります。認知症のことを専門的には知らず、ネットワークもない私でしたが、葛西スペースを知ってくれた方が繋いでくれたご縁から、注文をまちがえる料理店にインスパイアされ船堀で活動されている「定食屋きまぐれ」の皆さんが、一緒に素敵な「定食屋きまぐれ」を2日間だけ葛西スペースで開いてくださることになりました。船堀でのきまぐれを訪れて感じたのは、本当に丁寧に作られたものであること、ウェイトレスさんだけでなく、沢山のスタッフの方々の作られた仕組みや配慮がとっても素晴らしいこと。お客さんの暖かさ、みんなの笑顔。

できたらいいなぁ〜と、すごく気楽に考えていた自分を恥じるほど、きまぐれの皆さんは、どうしたらより良い場になるのかを考え続け、実行されていく姿に感動しています。きまぐれの馬上さんから「今回のすごいところは一般の人が関わっていること」と言っていただきハッとしました。定食屋きまぐれを通じて、多くの「普通のひと」が多くの気づきをえて、きまぐれの優しい世界 – 相手を認め許しあえる – が、どんどん広がっていくお手伝いが少しでもできれば、葛西スペースの私は嬉しく思います。

店長の尾田さんの「僕たちが注文をまちがえる料理店の種を拾ってきたように、葛西スペースでも定食屋きまぐれの種を拾って欲しい」という言葉を嬉しく思いました。いつか常設的なレストランが日本で生まれるかもしれない。unsicht-Barのように。

6月22日、23日は葛西スペース初の飲食店でもあります。残席も少なくなって参りましたが、ご興味がありましたらぜひご参加ください。

そして、定食屋きまぐれ、関わってくださっている多くの方に感謝を込めて、久しぶりのコラムを終わります。

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